クラブにとって重要な“顔”という機能
この数年で本当に大きく変わったのは、アイアンの性能かもしれません。
極端とも言えるストロングロフト、中空アイアンに代表される複雑な構造、そして高比重なタングステンや軟らかい樹脂素材、靭性の高い高反発な薄肉フェースなど、実に多くの技術が採用され、ひと昔前の単一素材でノーマルロフトのアイアンとは、全く別種のゴルフクラブになりました。
これらの新しいテクノロジーは、たしかにクラブの性能を向上する意味で大きな役割を果たしました。それらの恩恵を受けているゴルファーも多いと思います。一方で、かつてに比べて、あまり語られなくなった性能もあります。それはクラブの“顔”と呼ばれる、ヘッド形状です。
軟鉄などの単一素材のアイアンがほとんどで、キャビティアイアンすらそれほど主流ではなかった時代、ゴルファーは“顔”にとてもこだわりました。髪の毛一本分違うと、見た目の印象が変わるなどと言われた繊細な領域で、メーカーは形状の良し悪しを競ったものです。
現代のゴルファーの中には、形状なんて性能にたいして関係ないと思われる人もいるかも知れません。たしかに、髪の毛一本分の線の違いよりも、ソールに何十グラムものウェイトが内蔵されている方が、物理的な影響ははるかに大きくなります。しかし、“顔”が本当の意味で重要なのは、構えたときにゴルファーの印象やイメージに影響する点です。
もし機会があったら、形状の違う色々なアイアンを構えてみてください。よく見ると、これは打ちやすそうだなとか、左にいきそうだなとか、自然と印象が変わるはずです。上級者であれば、ドローが打ちやすそうだなとか弾道のイメージが沸くかもしれません。
このイメージが沸くということが、ゴルフではとても重要なのです。パッと構えたときに、いかにもナイスショットできそうな印象が持てたり、球筋をイメージしやすいクラブのほうが、がぜん結果は良くなります。その意味では、見た目の形状こそ最も重要な性能のひとつであると言えるのです。
『PROTO-CONCEPT』は、物理的な性能も優れていますが、そうしたゴルファーの感性にどう働きかけるかという性能にもとてもこだわっています。私達が目指したのは、ヘッドの線がはっきりしていて、それでいて優美であること。構えたときに、様々な弾道をイメージできるバランスの良さを持っていることです、ゴルフクラブは、直線と曲線が組み合わされた不思議な形状の道具ですが、バランス良く形作ることで、不思議な美しさが生まれます。
私達が目指したのは、そんな美しさなのです。性能を追求したことで生まれた、それはいわば機能美です。シンプルなデザインの中に、これまでの伝統的なアイアンと我々のノウハウが加わって、性能を出せる形状の美しさが出せたと思います。構えたときに生まれたイメージをなぞるように飛んでいく、美しい弾道。そんな喜びを味わっていただきたいのです。
『PROTO-CONCEPT』 ブランドプロデューサー
川崎康史